健康教室『六甲ハートクラブ』
植え込み型心臓ペースメーカーと携帯電話
 
○はじめに
 植え込み型心臓ペースメーカー(以下ペースメーカーと略します)と 携帯電話について、こんなご質問を戴きました。

「病院では『院内での携帯電話は電源を切ってください』との掲示があり ますし、電車に乗ると『他のお客様の迷惑になるので車内での利用は ご遠慮ください。またペースメーカーなどの医療機器に影響しますので、 携帯電話のスィッチを切って下さい』などとアナウンスされます。
 ペースメーカーに対して、携帯電話はどのようなことで危険なの ですか」。
 この問題は数年前よりインターネット上でも色々議論されていますし ご存じの方も多いと思いますが、確認の意味と現在の知識として知って 頂く意味で、ペースメーカーと携帯電話について書いてみます。
○ペースメーカーとは
 心臓には電気刺激を出す洞結節(固有のペースメーカー)と、それが 伝わる刺激伝統系があり、電気的エネルギーが規則正しく洞結節→心房 →房室結節→心室へと伝わることにより、適切な心拍数を得ています。
 この経路に異常が起こると脈が乱れ、不整脈と呼ばれる状態に陥り ます。
不整脈のうち、脈が一時的に停止(約5秒以上)するような場合 には、心臓から脳へ必要な血液量が供給されず失神(目の前が真っ暗 になって意識を失う)したり、稀には急死したりします。
 これを防ぐ為に電池と電気回路からなる発振器(ジェネレーター)を 皮下に埋め込み、ここから電極(リード)を血管内に通して先端を心臓の 内腔に固定させ、適切な心拍数を保つようにする機器がペースメーカー です。
○ペースメーカーの歴史
 今から約40年前、胸の皮下に装着する植え込み式ペースメーカー が初めて実用化されましたが、一定の回数だけ心室を刺激する固定型 であり、電池の寿命も短く、頻回に交換が必要でした。しかし、技術の 急速な進歩に伴い、20〜40g程度まで小型軽量化され、電池を6年以上 交換する必要もなく、患者さんの自己心拍を感知し、それに応じて電気 刺激を制御するデマンド型が主流となり、心房と心室を順序良く刺激する 生理的ペーシング、更には体動などを感知して運動量に応じて脈拍を 増やすレート・レスポンス型など、より自然に近いものが普及し、装着後も 殆ど生活に不便を感じなくなっています。
 現在、日本では約40万人にペースメーカーが装着され、毎年新たに 約2万5千人に埋め込まれていると言われています。
 ただこれらの植え込み式のペースメーカーは殆どすべてが外国製で、 保険診療で医療費はカバーされるものの、ペースメーカー本体の価格 が諸外国に比べ高すぎる事が問題にもなっています。
○ペースメーカーに及ぼす携帯電話の影響
 どのような状態で携帯電話がペースメーカーに影響を与えるか、に ついては、平成8年、ペースメーカー協議会が「ペースメーカーと携帯 電話の距離22センチ以上離すように」とのガイドラインを出しました。 (http://www.246.ne.jp/~snakajii/batista/dcmchisiki72.html)
 また、携帯電話は電源が入っている限り、たとえ通話中でなくとも 最適なアンテナを求めて基地局に電波を発信しており、平成9年には 厚生省が「携帯電話に関する医療用具安全性情報」の中で、
1)病院内 では(待合室など携帯電話端末の使用を特に認めた区域を除き)携帯 電話の電源を切る、
2)植込み型心臓ペースメーカーの使用者は、携帯 電話の使用および携行に当たり、ペースメーカ装着部位から22cm程度 以上離す。また、混雑した場所では、付近で携帯電話端末が使用され ている可能性があるため、十分に注意を払う、としました。

 現在のデマンド型ペースメーカーでは、携帯電話の電磁波を自己 心拍と間違えて必要な電気刺激を出さなくなってしまうこともあり、前述 のような危険な症状を予防できなくなってしまいます。そこで最近の ペースメーカーには心臓の働きを電気的にとらえる回路が組み込まれ、 外部からの強い電磁波による擬似的な電気信号を心臓の動きとは区別し、 このような信号を感知した場合はEMI防御機構(電磁波障害防御)が 働くように設計されています。
 しかし、このような機構を持たぬ古いペースメーカーを使用して いる方もまたまだ多く、改善型の機種が流通する今後5年から10年間 程度は、装着者ご本人は勿論、周囲の方々にもご理解頂くことが 大切になるわけです。
○携帯電話とPHS電話、そしてマナー
 この様に携帯電話に関しては、ペースメーカーのみならず様々な医用 電気機器の誤作動を招く可能性が指摘された為、特に病院では携帯電話 の使用を厳しく制限されてきました。そこで注目されたのがその出力電力が 携帯電話の1/5〜1/10と小さいPHS電話で、周辺機器に与える影響は ほぼ無視できる程度である為、最近では病院でも職員の通信用に使われ ています。
 しかし、携帯電話もPHS電話機も見た目には区別できません。ペース メーカーを装着した方にとっては、万一の危険から逃れたいと思うことも 事実であり、その切実な不安を考えると、満員の電車車内では携帯電話 の電源を切る、PHS電話の使用を控えるということは、マナーとして大切 なのではないでしょうか。また、病院内でのPHS電話の使用についても、 それを眼にする患者さん方などへの配慮が必要であろう、と思われます。
○ペースメーカーを装着している方々へ
 以上を踏まえて循環器内科の専門医から「ペースメーカーを装着して いる患者さんには、
1)自ら携帯電話を使用しても大丈夫だが、心配なら 植え込み側と反対側の耳に当てれば更に安心、
2)雑踏の中でも携帯 電話を押しつけられない限り問題は無い、と説明している、また、医者は 患者さんの不安を煽るような言動は慎むべき」との御意見も頂きました

(上記は健康や医療に役立つ最新の情報誌「かかりつけ医通信」からの部分転載で す。メール・マガジン「かかりつけ医通信」ホームページ: http://homepage1.nifty.com/hone2/kakari/)